父と桜。

暖かだった。

 

桜の花が、話題になると思い出す。

 

父が、病室から

     桜の花を見ていたのを。

「たまには、こういうのもいいね。」

父の目には、

どこか、旅館から見ている風景だったのかしら。

「そうだね。桜、きれいだね。満開。」

私は、父と話を合わせるのが上手。

父は、そんな私を、

   亡くなるまで可愛がってくれた。

記憶が、ほとんどなくても、

私のことは忘れることがなかった。

自分の命が、もうわずかなことをさとって、

   厄介をかける、と申し訳なさそうにしていた。

横になっている父の側で、泣きじゃくるわたしの頭を

   優しく撫でてくれた。

その時の、父の優しい目を

    忘れない。

 

桜、きれいだったね。

また、きれいな桜、咲く季節がやってくるよ。